アセトアルデヒド濃度と遺伝子多型

アルコールを飲むとき、顔色を変えることなく平気でグイグイ飲める人、少し飲むと顔が赤くなる人、ビールをコップ半分も飲むと青くなる(気持ち悪くなる)人がいます。この反応の違いは血液中のアセトアルデヒド濃度が関係します。

2型アルデヒド脱水素酵素 (ALDH2) の遺伝子多型

消化管から吸収されたアルコールの約80%はアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドに酸化され、更にアセトアルデヒドのほとんどはアルデヒド脱水素酵素 (aldehyde dehydrogenase) によって酢酸に酸化され分解されます。2型アルデヒド脱水素酵素 (ALDH2) には、遺伝子多型が存在し、変異型のALDH2*2対立遺伝子が1つ存在するとALDH2活性が6%まで著減します。

遺伝子多型とは、遺伝子を構成しているDNAの配列の個体差であり、集団の1%以上の頻度であるものと定義されます。頻度の多いものを野生型、少ないものを変異型と呼びます。ALDH2の場合は、ALDH2*1が野生型(代謝が正常の型)、ALDH2*2が変異型(代謝が不十分な型)です。ALDH2は12番の常染色体に存在しますので、ヒトには2つがセットになります。

ALDH2*1/*1のセットは正常型ホモ接合体、ALDH2*1/*2はヘテロ接合体、ALDH2*2/*2は変異型ホモ接合体とされます。

ALDH2活性が低い人(変異型と正常型が一つずつのヘテロ型:低活性型)が飲酒すると高アセトアルデヒド血症をきたして顔面が紅潮するフラッシング反応を呈します。この現象を持つ人をフラッシャーと言います。ALDH2の活性が無い人(変異型が二つのホモ型:無活性型)が飲酒をすると、少量のアルコールであっても気分が悪くなります。日本人の場合は、正常型:低活性型:無活性型の人口比率は、約15:9:1 とされています。

遺伝子多型とアルコール依存症

この遺伝子多型は一般人でも飲酒行動に影響し、低活性型の人は正常活性型の人に比べて飲酒量が明らかに少ないです。日本における正常コントロール群とアルコール依存症群で比較するとALDH2*2遺伝子を一つ以上持つ者の割合は正常群では42%であるのに対してアルコール依存症群では12%と有意に低く、ALDH2*2にはアルコール依存症の発症抑制効果があります。

ALDH2*2を持つアルコール依存症患者は口腔・咽頭~食道などの上部消化管に癌を生じやすいことも示されています 。この遺伝子多型と神経伝導検査によるアルコール性末梢神経障害の研究において、低活性型ALDH2の患者は明らかに神経障害が強く、アセトアルデヒドが末梢神経に障害を与えることが示されています。また同様の手法を用いた研究でアセトアルデヒドが中枢神経系にも影響を与えることが示されており、フラッシング反応を呈する人の飲酒は(アルコール依存症である・なしに関わらず)多くの臓器に障害を呈する可能性があります。

そうなると、ALDH2*1の人口比率が高いほど、フラッシャーが少なく、呑兵衛が多いと推測されます。国内のALDH2*1の比率を調べた研究があります。その研究によるとALDH2*1遺伝子頻度が80%を超えている地域(グイグイ飲める遺伝子を持っている人が64%以上)は、北海道、福島を除く東北6県、栃木、埼玉、高知、福岡、熊本、鹿児島となります。県別の一人当たりの飲酒量では、これらの県の飲酒量が多い傾向はありますが、都会の方が量が多いようです。

景気が悪くなると、飲酒量が増え、アルコール依存症患者が増えるという統計データがあります [廣, 2000]。新型コロナウイルスの影響で失業率が増え、アルコール依存症患者が増えると危惧されます。更には自粛で自宅待機の時間が増えることにより、アルコールを飲むきっかけが増えます。自粛期間中に飲酒量が増えている方も多いのではないでしょうか。

お酒は嗜む程度にして、別の没頭できるものを見つけて明るく、楽しく、前向きに生活したいです。

文献

廣尚典, 樋口進. 景気変動とアルコール症. 精神科診断学2000; 11, 283-289.

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