ビル・キャンベル氏のコーチング

ベストセラー「1兆ドルコーチ」(ダイヤモンド社)の第3章以降の話です。第2章までは、ビル・キャンベル氏の言動から、一般的な組織を束ねるリーダーの心構えを解説していますが、第3章以降は実際の言動を例に挙げながら(コーチングしてもらったリーダーからの話を聞きながら)話が進んでいきます。

終盤ではビルの人となりがその弟子たちにより語られ、読んでいて少し涙ぐみました(自己啓発本で涙ぐむことはめったにありません)。

「信頼」の重要性

ビルは信頼できない人物とは付き合いませんでした。信頼できる相手でなければ、コーチングしても効果がなく、自分も本気になれないからなのだろうと思います。信頼には4つの要素があります。
①「約束を守ること」いつでも約束を守ります。
②「誠意」お互い、その家族、所属するチーム・会社に対して誠意を尽くします。
③「率直さ」ビル自身もそうですが、その相手にも常に率直であることを求めました。
④「思慮深さ」状況に応じて秘密を守るなどの深い思慮が必要です。

一方で、「信頼していることは、常に意見が一致する」ということではなく、「信頼している相手には異を唱えやすい」ことでもあります。信頼関係のあるチームでは意見の相違が生じても、感情的なしこりは少ないからです。

コーチングされる側の資質

ビルが求めたコーチャブルな資質とは「正直さ」、「謙虚さ」、「あきらめずに努力を厭わない姿勢」、「常に学ぼうとする意欲」を挙げています。前2者はコーチされる側の必要条件のようなもので、後2者はコーチすることによって得られる効果が大きくなるための必要条件といえそうです。努力する、上昇志向のある人間の力になりたいのは誰もが思うことなのでしょう。

コーチングする側の重要ポイント

この書の大半がコーチする側のポイントについての有用な情報に満ちています。実際の生活において、それぞれの相手と自分にどの要素が足りていて、どの要素が足りないか、ということを考えながら読んでいくと、とても有用な時間になると思われます。

代表的なポイントについて、
第一には、積極的傾聴の重要性を述べています。一般的な真剣に相手の話に耳を傾けるのみならず、どんどんと相手の話に質問を投げかけ、相手に本当の問題は何かを気付かせるところまでを目標にします。また、相手に対する敬意のこもった問いかけは、相手の自己重要感、他者と繋がっているという関係性、自分がコントロールできているという自立性を高める効果ももたらします。
第二には、「相手を大切に思っていることをわかってもらえるような形で本音を伝える」ことです。述べていることはわかるのですが、実践はなかなか難しそうです。ポイントはフィードバックは徹底的に正直で率直に、かつできる限り迅速に与えます。negativeなフィードバックは人目につかないところで与えます。
第三には、相手の能力を、相手が自分で思っているよりも更に深く信頼します。そしてもっと勇敢になるようにハッパをかけます。自分の能力を高く信頼してくれるコーチの言葉は心に響きます。

チームプレイの重要性

ビルはアメフトのコーチをしていた経験から、個人個人の能力が重要であることは間違いないものの、チームとして最大限の能力を引き出せるシステム作りに重点をおいています。

チームのメンバーには、知性、勤勉、誠実であることに加えて、根気強さを表すグリットを持っている人材を採用することの重要性を強調します。多様な才能が巧みに織り合わされたチームが最高のプロダクトに繋がります。多様なチームの条件の一つにマイノリティーを重宝する姿勢も含みます。女性をなるべくチームに引き入れ、自然な偏りのないチーム作りが重要です。

物事がうまく行かないときは、リーダーは先陣に立って、いつも以上に「誠意」「献身」「決断力」を発揮するように努めることを述べています。リーダーは苦境に立った時、全身全霊で本気で取り組みます。

2016年にビル・キャンベル氏は永眠されており、本人の話を聞くことはできません(生きていても機会はなさそうですが)。ただ、いろいろなことで心に迷いが生じたときに、この本の内容は非常に有用な情報で満載です。また、最後の部分でこの本を読んだ人には、迷えるリーダーをビルのように支えるコーチになってみることを勧めている部分があります。自己啓発本、How to本、かつ偉大な人物の伝記のような良い本に巡り合うことができました!