映画「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています」2018年

Yahoo知恵袋に投稿されたネタが、ichidaさんによってマンガ化され、それが映画になった作品です。結婚3年目の夫婦、サラリーマンの加賀美じゅんが帰宅すると、妻のちえが死んだふりをしていました。その日から連日、ちえは死んだふりを続けます。

結婚3年目で再検討?

結婚してもうすぐ3年がたとうとしている加賀美夫妻。夫のじゅん(安田顕)はバツイチで、元妻とは結婚後3年で離婚しました。2度と同じ失敗はしたくないと思ったじゅんは、ちえ(榮倉奈々)と再婚したとき「結婚3年目に、今後も結婚生活を継続できるかどうか、二人の気持ちを確かめ合おう」と約束をしていました。

サラリーマンのじゅんが仕事を終えて帰宅すると、玄関でちえが口から血を流して倒れていました!動転するじゅんですが、「ククク……」と笑うちえの傍らにはケチャップがあります。ちえは死んだふりをしていました。

それからというもの、家に帰ると必ず死んだふりをするようになりました。ある時は、ワニに喰われ、ある時は銃で撃たれ、またある時は頭で矢が射抜かれ……。最初は呆れるじゅんでしたが、何を聞いてもごまかし、笑うだけのちえにだんだん不安を覚え始めます。寂しいだけなのか、何かのSOSのサインなのか。

ちえの母親は、ちえが4歳のときに亡くなり、そのときに哀しむ父親をなぐさめようと毎日父親が帰宅したときに隠れて”かくれんぼ”をしていたという話を聞きます。死んだふりをしていたのは、疲れたじゅんを元気づけるためだったのかもしれません。

同僚の夫婦が、ユーモアを含めて上手に絡ましており、飽きのこない良い映画になっています。ちえ夫婦、ちえの両親、じゅんの元妻とのエピソード、同僚夫婦、いろいろな夫婦の在り方がテーブル上に上げられ考察されています。世間の価値観にとらわれずに自分の在り方で良いのでは、と言っているように感じました。

「月が綺麗ですね」

じゅんがちえに何度か質問します。自分のことをどう思っているのか、と。するとちえが「月が綺麗ですね」と答えます。この意味は夏目漱石が「月が綺麗ですね」は英語の”I love you”の和訳として提案した言葉です。私は最近、ドラマ「おっさんずラブ」の中で、この由来を知りました。

ある映画reviewの中に「「月が綺麗ですね」の意味を理解しないで映画が進んでいくことに驚いた。それなりの年齢でこの言葉の意味を知らないのは、日本人としてあまりに教養不足だと思う」とありました。キビシイ・・・。高校生の娘によると、現実の世界でも「国語便覧」にこの言葉が紹介されているようです。

感想とうんちく

印象に残ったのは「優しい言葉も他人を傷つける」というセリフです。ちえが、じゅんの同僚の妻(由美子)が苦しいときに、無言でいたときに言い訳としてことのセリフをつぶやきます。どんな言葉も、それまでに利用されてきた過去のエピソードを連想されてしまい、言葉として発された瞬間から、別の要素とリンクされます。そうなると、受け取った相手は、自分とは異なる価値で受け取る可能性が高いです。精神的に追い込まれている他人には、追い打ちをかける可能性がでてきます。

死んだふりをするちえに、じゅんがその理由を推測しますが、そのシーンは無言となり、観た人が自由に解釈できる設定になっています。映画に限らず、どんな作品でも、”鑑賞する側の裁量が残っていた方が趣きがでる”ということはわかります。しかしながら、この映画はオープニングから「なぜ死んだふりをするのか」という点で鑑賞する側の注意を引いています。このテーマを鑑賞する側の裁量にしてしまうのは、この映画自体の存在意義を鑑賞サイドに投げてしまっているようで、やり過ぎのように感じました。