映画「北斎漫画」1981年

「富嶽三十六景」などの作品で名高い浮世絵作家・葛飾北斎とその娘・お栄、友人・滝沢馬琴との交流、波乱万丈に満ちた生涯を描いた作品で、劇作家・矢代静一の同名の戯曲を映画化したものです。

北斎の貧乏な生活

鉄蔵(北斎、緒形拳)と娘のお栄(田中裕子)は左七(西田敏行)の家の居候しています。本所の貧しい家に生まれた鉄蔵は、幼い頃に御用鏡磨師・中島伊勢の養子となりますが、家業に励まず、絵師の弟子となりますが、なかなかうだつが上がりません。困窮すると養父にお金の援助を申し出る生活です。一方、元侍の左七は今は下駄の職人ですが、いつかは読本作家になりたいと志しています。

ある日、鉄蔵は夜道で魔性の女・お直に出くわします。鉄蔵は彼女の裸体を描こうとしたが、うまく描けません。鉄蔵はお直を養父・伊勢に紹介することで、金をせびります。その伊勢も、お直の魔性にとり憑かれたあげく、首をくくって自殺します。お直は不思議な女で、実は幽霊だったのかもしれません。

お栄は左七を訪ね、読物の挿し絵を父に描かせて欲しいと頼んだところ、左七は喜んで引き受け、経済的な窮地をしのぎます。北斎の名で描いた挿絵は評判になりましたが、このタイミングで鉄蔵は決心して家を飛び出します。富士をめぐる放浪の旅の中で、傑作「富嶽三十六景」が生まれます。

ここで、一気に時代が流れます。

いつしか時は流れ、北斎は八十九歳、お栄は七十歳、馬琴は八十二歳となりました。ある日、お栄がお直とそっくりの田舎娘を連れてきました。海岸で見かけた蛸と戯れる海女達からヒントを得て、北斎は“お直”を裸にすると、巨大な蛸が、裸女に絡みつく絵を一気に描きます(有名な浮世絵「蛸と海女」)。裸のお栄に抱かれながら馬琴も死に、北斎もまた生への執着と絵への未練を残しながら、90の生涯を終えます。

感想と薀蓄

「富嶽三十六景」の話のあとは、一気に出演者が全員老人になります。言葉使い、動作がわざとらしいように老人の演技になります。一人の画家の人生を起承転結にまとめるのは至難の技であることは想像できますが、一挙に時代を進めたことで中だるみがありません。うまい構成だと思いました。

若いころのお栄がお酒を飲むシーンがあります。お酒が白かったのが、印象的でした。にごり酒なのかと思いましたが、どぶろくだったと予測されます。江戸時代には清酒を大量生産することは可能となっていましたが、庶民は廉価のどぶろく(炊いた米、米麹、水、酵母を原料に発酵させただけ)を飲んでいたようです。

映画の中では、微妙に異なるセリフになっていますが、北斎75歳のときの言葉に「70歳以前に描いたものは取るに足らないものばかりであった。73歳で多少は鳥獣虫魚の骨格や草木のなんたるかを悟り、90歳で奥義を極め、100歳で神妙の域を超えるのではないだろうか。」とあります。年齢を重ねても成長し続ける姿勢は尊敬します。年齢を理由に道を諦めるのはまだまだ本気とは言えないことなのかもしれないと、自分を見つめなおしました。