蜘蛛の糸 ~他者と自己の救済について~

蜘蛛と言えば糸を使って網を張るイメージがありますが、実際には半数の種が網を張らずに獲物を捕まえます。毒は虫を殺す程度のもので、ヒトに影響を及ぼすほどの毒を持っている蜘蛛は数種類に限られます。ハチやアリとは異なり、単独で行動する肉食昆虫です。しかしながら、個体間で互いを攻撃しない、お互いが接近する、ときに共同作業をするなどの子孫繁栄のための行動様式は存在するとされています。

蜘蛛とは

古代の蜘蛛は、1億6500万年前のジュラ紀中期の層に化石として中国の内モンゴルで見つかっています。ヒトの祖先らしき哺乳類が存在したのは、1億4500万年前の白亜紀以降と言われていますので、蜘蛛の方がかなり先輩です。小さな蜘蛛は、身体のサイズに比べて非常に巨大な脳を持っているため、脳の一部が身体の隙間にあふれ出している場合すらあることあるそうです。小さな蜘蛛の場合は、中枢神経が身体の容積の80%を占めるものもあるそうです。蜘蛛が芸術的な網を張ることができる理由もここにあるのかもしれません。

芥川龍之介「蜘蛛の糸」

芥川龍之介の児童向け短編で「蜘蛛の糸」という小説があります。大泥棒で生きている間に悪事の限りを尽くしたカンダッタが地獄で苦しんでいました。このカンダッタは、生前に一つだけ良いことをしました。それは、一匹の蜘蛛を助けたことでした。お釈迦様は蜘蛛の糸を垂らしてカンダッタを極楽に救いだそうとしました。カンダッタは蜘蛛の糸を見つけ極楽を目指しましたが、地獄の亡者がこぞってその細い糸を利用して上がってきます。カンダッタが上がってくる罪人たちに「これは俺のものだ」と叫んだときに、糸がプツリと音を立てて、切れてしまいます。

教訓

この物語からの教訓は、蜘蛛という小さな生き物であっても「縁を大切にすること」と自分だけが大丈夫なら良いという「我田引水な考えでは救われない」ということです。ちなみに写真の蜘蛛は、当家のキッチンシンクに落ちて出れなくなった蜘蛛です。屋外にそっと放しました。縁はできたようです。地獄に行って蜘蛛の糸を見つけた際は、我田引水にならないように気をつけます。

「夜と霧」のパン

「夜と霧」は、ユダヤ人としてアウシュヴィッツに囚われ、奇蹟的に生還したフランクル(精神科医)の著書で、1946年に出版されました。ナチスの強制収容所の壮絶な体験を述べています。

この中で、食べ物が極限までに不足し、自分の命さえも危ないときに「死にかけた仲間に、なけなしのパンを譲った収容者」のエピソードが紹介されています。まさに自己犠牲の上になりたつ周囲への思いやりです。

自分が死を前にして、同じ行動ができるかどうかの自信はありません。でも、心に余裕がある段階では、周囲を思いやる心を大切にしたいです。