赤筋と白筋 ~刺身を食べながら語る薀蓄(うんちく)~

人間の身体には400種類以上の筋肉が存在し、短い数ミリのものから、数十センチの長いものまで多種多様です。この筋肉の構成として、おおまかに白筋(速筋)と赤筋(遅筋)があります。白筋は酸素なしで、筋肉に貯めておいた糖を利用して一気に力を発揮し、短距離ランナーに発達しています。赤筋は持久力に優れた筋肉で、酸素を利用し脂肪燃焼をも行い、長距離ランナーに発達しています。

マグロは赤身で、ヒラメは白身がメインですが、この理由としてマグロは長い時間継続して大海を回遊するために赤筋の比率が多くなり、ヒラメはエサを獲るときに白筋の瞬発力が必要で、白筋の比率が高くなっていることが挙げられます。カンパチは、赤身と白身の混合で、赤い部分は常にゆっくり動いている部分で、白身の部分は瞬発力を必要としたときに動く部分と考えています。

人体においても、短距離を思いっきり走る際に必要な下腿の腓腹筋(ふくらはぎ)は白筋の比率が多く若干白っぽい筋肉であり、起立し続けるために必要な背骨を支える筋肉は真っ赤な赤筋となっております。ゆっくり動く牛は赤い筋肉で、ばたばたと飛ぶ鶏肉は白めの筋肉というのも納得できます。

ヒトの筋肉では研究が進んでいます。姿勢を維持することが主たる目的である大腿の中間広筋や下腿のヒラメ筋は赤筋の比率が高く(下図の赤枠)、瞬発性が求められる上腕二頭筋、下腿三頭筋は白筋の比率が高い(青枠)。

論文からの引用です

赤血球にはヘモグロビンという酸素を運ぶ役割のタンパク質がありますが、肺から毛細血管を介して筋表面まで酸素を運びます。その後、筋表面まで運ばれた酸素をミオグロビンというタンパク質が筋肉内に運びます。ミオグロビンは鉄分を含むために赤い色をしています。血抜きをした筋肉でもミオグロビンは残るために赤い色の筋肉になります。有酸素運動を行う赤筋がより赤くみえるのはこのためです。

お肉の味は、アミノ酸の一つであるグルタミン酸と核酸を構成する成分の一つであるイノシン酸がうま味成分として重要です。白筋よりも赤筋にグルタミン酸が多く含まれている一方で、逆にイノシン酸の含有量は白筋よりも赤筋では少ないとする報告があります。肉の味わいは、このような成分の差が関係しているようです。お肉の味にはその生き物の生活背景が大きく関係します。食事の際には、食材についていろいろなことを考えながらいただくと食材のありがたさが実感できるように思いました。