頭痛の機序と予防方法 ~片頭痛 と 緊張型頭痛~
2021年九州では少し早めに梅雨に入りました。6月上旬の今日では、気圧の変動が大きくなるにつれて、周囲には頭痛に悩む人が多発しています。頭痛について、少し調べてみました。
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一次性頭痛とは
脳画像(CTやMRI)を撮影したときに、特に異常が見つからない頭痛を一次性頭痛と言います。一次性頭痛には、主には片頭痛と緊張型頭痛があります。二次性頭痛は外因性の病因によるもので、上気道炎に伴うような頭痛も含みます。
一次性頭痛の内訳は、緊張型頭痛が69%、片頭痛が16%と多いです [Olesen, 2005]。ただ、両者の混合型も良く見受けれられます。若い世代では、片頭痛の比率が高くなり、中年以降の世代では緊張型頭痛の比率が高くなります。
片頭痛はズキンズキンと心臓の拍動と同期する強い頭痛です。緊張型頭痛は精神的ストレスなどが誘因となる締め付けられるような頭痛です。私自身も20歳台のときは、片頭痛に悩まされたことがあります。最近では、もっぱら仕事のストレスによる緊張型頭痛が多いですが。
片頭痛の特徴は
片頭痛の年間有病率は10%前後ととても高いです。片頭痛発作が生じると、仕事はおろか日常生活も制限されるので、とても辛いです。片頭痛の人の30%に”視野にギザギザした光がちらつく”という様な前兆があります。この前兆の後に、強い拍動性の頭痛が続きます。一度頭痛が生じると仕事などを継続することはとても困難です。
誘因は、リラックスしたときに生じやすいと言われ、入浴後、キツイ仕事が終わりそうなとき、などに生じます。仕事の日よりは休日に起こりやすいです。仕事人間には逆のこともあります。気圧の変動(天気の変わり目)、体調不良も関連します。
機序は、「頭部の血管が一度異常に収縮して(前兆の視野障害)、その後拡張して頭痛が生じる」とする血管説がありますが、実際に血管が拡張するデータは得られず[Schytz, 2019]、片頭痛のメインの機序は、血管説ではないと考えられています。
最近では、脳硬膜などの侵害性刺激に感受性をもつ三叉神経終末が、何らかの刺激によりカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、サブスタンスPなどの神経ペプチドを放出し、局所的な痛みを生じるとする三叉神経血管説 [Moskowitz, 1993]が主流となりつつあります。一度この経路が活性化されると通常は痛みとして感じられない血管拍動が頭痛として感じられます。
片頭痛の治療
片頭痛の治療は、月に数回以上と発作回数が多いときは、予防薬(β遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗うつ薬、抗てんかん薬など)を内服します。この予防薬は、片頭痛発作の起こしやすい時期のみ(生理中、梅雨の時期など)に内服するということも考慮されます。
この数か月で発売となったガルカネズマブ(商品名 エムガルティ)またはフレマネズマブ(商品名 アジョビ)も同じく予防薬で、片頭痛の原因となるCGRPに対する抗体製剤です。注射薬になります。三叉神経の末端から放出されたCGRPにこの抗体が結合し、痛みにつながるCGRP受容体への結合を阻害します。診断が正しければかなりの予防効果を発揮します。
片頭痛発作前(前兆出現時)もしくは直後にはトリプタン製剤(神経ペプチド放出抑制)、頭痛時にはいわゆる頭痛薬(鎮痛薬)になります。
緊張型頭痛の特徴は
年間有病率は片頭痛よりも多く、約20%と推測されます。前兆はなく、頭痛の程度は片頭痛よりも軽症で、頭痛が生じても仕事を継続できることがほとんどです。
誘因は、精神的・身体的ストレス、不安、運動不足、デスクワークなどです。体に負担がかかったときのSOSサインとも言えます。
これほど頻度の高い疾患にもかかわらず、正確な機序はよくわかっていません。原因は多要素が関連しているためかもしれません。
一般的には、ストレス ⇒ 血行障害・肩こり ⇒ 頭痛との悪いサイクルが関係すると考えられています。専門的には、肩こりなどの血流障害が誘因となり、頭頚部周辺の筋膜の痛み感受性増加の要素と、脳における痛み感受性増加の要素、この2つが持続する頭痛に関連する[工藤, 2019]とされています。
緊張型頭痛の治療
緊張型頭痛は、なにはともあれ体のストレス減少が重要で、軽い全身運動が最も効果的です。まずはお試しください。
新しい薬も少しずつ開発されていますので、困ったときは脳神経内科などの頭痛に詳しい医療機関への受診が必要です。頭痛で悩む方の参考になれば幸いです!
参考文献
Olesen J, et al. The Headaches. Philadelphia, 2005.
Schytz HW, et al. Non-invasive methods for measuring vascular changesin neurovascular headaches. J Cereb Blood Flow Metab, 39: 633-49, 2019
Moskowitz MA. Neurogenic inflammation in the pathophysiology and treatment of migraine. Neurology, 43(6 Suppl 3): S16-20, 1993
工藤雅子. 緊張型頭痛の治療. 神経治療 36:233-237, 2019
日本頭痛学会. 慢性頭痛の診療ガイドライン2013