漫画「10万分の1」宮坂香帆

知り合いから、近日(2020年11月27日)公開予定の映画「10万分の1」について熱弁される機会がありました。「EXILE」「GENERATIONS」の白濱亜嵐さんと「まだ結婚できない男」にも出演している平祐奈さんがダブル主演を務めます。宮坂香帆の人気コミックを実写映画化した恋愛映画です。原作が存在する映画のときは、予め原作を読んで背景を知るとより映画を深く楽しむことができます。アマゾンで原作の漫画9巻セットを購入しました(古本で2286円)。この映画の公開が近づくにつれて、値段は上昇しているようです・・・。

届いて感じたことは、まさに少女漫画です。少女漫画を読むのは、小学校時代に姉が読んでいた少女漫画を暇にかまけて読んでいたとき以来になります。

あらすじ

高校2年生で剣道部のマネージャーを務める桜木莉乃は、中学時代からの友人である剣道部の人気者・桐谷蓮に思いを寄せています。しかし恋愛に奥手の莉乃は、女子生徒の憧れの的である蓮に気後れして、距離を縮めることができません。そんなある日、思いがけず蓮の方から告白され、2人は付き合うことになります。誰もがうらやむ幸せな日々を送る莉乃と蓮ですが、残酷な運命が2人に降りかかります。

★主な登場人物
・桜木莉乃……高校二年生。両親を早くに亡くしていて、祖父と二人暮らし。
・桐谷蓮……剣道部主将。代々警察官の家系で、将来は警察官になるのが夢。
・橘千紘……莉乃の親友。
・比名瀬祥……千紘の彼氏で、蓮の親友。千紘とともに病気に立ち向かう2人を応援する。

だんだんと、足が動かない日が続く莉乃に祖父が気づき心配します。祖父は妻(莉乃の祖母)が筋萎縮性側索硬化症(ALS)で、莉乃が同じ病気ではないかと疑ったからです。

莉乃は、祖父と一緒に大きな病院で検査を受けます。そしてALSの診断が下されます。蓮はALSのことを理解したうえで、それでも莉乃のことが好きだと言います。しかし、莉乃はそんな蓮の気持ちを素直に喜ぶことができません。症状が進行していけば、自分は何もできなくなる・・・。病気である自分の存在は、蓮にとって重荷となってしまう。莉乃はノートに書き連ねた「やりたいことリスト」の最後に、「桐谷くんと別れる」「やりたいこと全部叶えたら死にたい」と書きます。

夏休み。2人は東京へお泊り旅行に行きます。祖父は最後の旅行と覚悟を決める莉乃に、旅行を楽しんでほしいと温かく見守ります。蓮と莉乃は、家族や友人からの連絡を無視して、長野への旅行へと強硬し、最後の旅行を楽しみます。旅行から帰ったときの祖父の言葉を聞いて、莉乃はみんなから心配され、一人ではないことを強く意識します。

新学期、莉乃はクラスメイトのみんなにALSであることを告白します。「私はこの学校を卒業したいと思っています。それが私の今の目標です。きっと、卒業まで迷惑かけると思います。でも・・・みんなの力を貸してくださいっ!」クラスメイトたちの反応はとても温かいものでした。

半年の月日が流れ、莉乃は車イスで生活するようになります。それまでは普通にできていたトイレが一人でできなくなり、恥ずかしさから人を呼ぶこともできず失禁してしまいます。自分の思っている状態と現実の病気とのギャップの描き方がリアルで、莉乃の心情を察すると涙なしでは読み続けることができません。

そんな中、莉乃は蓮が自分のために医学部志望に進路変更したことを知ります。「私なんかのために将来の夢を変えちゃうの?」「この先一緒にいたって迷惑しかかけられないのに。私は蓮くんに何もしてあげることができないのに・・・」顔をあげた莉乃の頬には涙がつたっています。そして、莉乃は無理に笑顔をつくって言います。「だから・・・、私のこと振って。蓮くんから振ってほしいの」

蓮は断言します。「莉乃はバカだ。何もわかってない。莉乃のためだけに医学部を受験するんじゃない。オレのためでもあるんだ。一緒にいるために」。二人がお互いを思いやる姿は、とても美しくそして切ないです。

蓮は宣言通りにK大医学部に合格します。受験が終わったタイミングを見計らって、莉乃は前々から考えていたことを蓮に伝える。「私・・・子供を産みたい。蓮くんとの赤ちゃんが欲しいの。ダメ・・・かな?」。病気のせいで遠慮する癖がついてしまった莉乃が口にした”願い”それは未来にふたりの愛の証を残すことでした。「じゃあさ、オレの願いも聞いてくれる?」「オレと結婚してください、一生、オレと生きてください」。みるみるうちに莉乃の目が赤くなります。「はい、私をお嫁さんにしてください!」

結婚し、妊娠、出産(双子)して、それから数年後。快晴の空の下、蓮と莉乃は海辺で遊ぶ子供たちを見守っています。子供たちが駆け寄ってくると、莉乃はうっすらと笑顔を作ります。「パパ―、凛もおんぶー」子どもたちの”お願い”に、蓮は穏やかに笑って答えます。「パパの背中はパパの一番の人の特等席なんだ。だから、ごめんね。凛と礼太にもいつかきっと一番の人が現れるから、それまではお預けだ」。

蓮と莉乃は、病気が進行しても、どんな状況になっても、強く、楽しく生きていきます。

涙なしで、読み切ることはできません

筋萎縮性側索硬化症 ALS

診療科は「脳神経内科」になります。日本神経学会のHPから、病気の説明をそのまま引用します。

”筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉が徐々にやせて力がなくなっていく病気です。しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かすための脳や脊髄(せきずい)の神経(運動ニューロン)だけが障害をうけます。その結果、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。ALSを治す薬はありません。常に進行性で、一度この病気にかかりますと症状が軽くなるということはありません。 体のどの部分の筋肉から始まってもやがては全身の筋肉が侵され、最後は呼吸筋も働かなくなって多くの方は呼吸不全で死亡します。”

病気のことを知れば知るほど、辛い病気であることが理解できます。物理学者のホーキング博士、美容アドバイザーの佐伯チズさん、野球選手のルー・ゲーリックさん、映画「アリスのままで」の監督リチャード・グラツァーさんなど、多くの著名人がこの病気でお亡くなりになっています。稀な病気というわけではないようです。

発症する率は、10万人に5~10人程度ですが、莉乃のような家族性はその一部となり、この題名にあるように「10万分の1」くらいになるようです。

物事の二面性

学生だったころの指導者の一人が、30歳台で心筋梗塞になりました。その方は体重100kgを超える巨漢でしたが、病気をきっけに健康的な生活に心がけ、普通の体格になりました。今でも元気に過ごしています。もしもあの時に心筋梗塞になっていなければ、今頃は別の病気でお亡くなりになっていたかもしれません。

知り合いの女性は、歩くのが不自由な病気になりました。それまでは奥さんのことを振り返る機会が少なかった夫は、奥さんに配慮することが増え、夫婦仲が良くなりました。夫は、「病気によって、かえって楽しい人生になった」とコメントしています。

病気自体は辛くて、悲しいことには間違いありませんが、その中でも何か得られるものがあるのかもしれません。この「10万分の1」では、人の優しさ、人の強さに気づくことができたことなのかもしれない、と思いました。

未来への希望

現在は、ALSに対して病状の進行を止める治療法さえありません。しかしながら将来は、蓮が考えているようにiPS治療などの治療法ができるのではないかと期待されています。

梅毒のような感染症は昔は不治の病でしたが、現在では病気の診断がつけば完治できます。ALSと似た病気である脊髄性筋萎縮症の一部は、この1-2年で病状の進行を大きく遅らせる治療法が発売されています。

ALSの治療法もいつかはわかりませんが、完成する日が必ず来ると思います。治療法が完成した際には、蓮と莉乃の続編を読むことができのではないかと、作者の宮坂香帆さんに期待しております。